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東京高等裁判所 平成4年(ネ)20号 判決 1992年7月16日

控訴人 山本幸子

<ほか四名>

右五名訴訟代理人弁護士 神山博之

被控訴人 柏崎信用金庫

右代表者代表理事 市嶋健吉

右訴訟代理人弁護士 金田善尚

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

ただし、原判決主文第四項の「山本トシコ」を「山本トシ子」に更正する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  被控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  主文第一項同旨

2  (附帯控訴―予備的請求)

原判決主文第四項を次のとおり変更する。

控訴人前村光子は原判決添付別紙物件目録二(1)記載の土地につき、同伊部ハルイは同目録(2)記載の土地につき、同山本トシ子は同目録(3)記載の土地につき、同越石幸枝は同目録(4)記載の土地につき、新潟県知事に対し山本芳郎へ所有権を移転する農地法三条所定の許可申請手続をし、右許可があったときは、山本芳郎に対し所有権移転登記手続をせよ。

第二事案の概要

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第二事案の概要」欄の記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決五枚目表二行目の「所有権移転登記」の前に「昭和六二年一一月二七日受付の」を加える。

二  同六枚目表四行目の「何もしなった」を「何もしなかった」に改める。

第三争点に対する判断

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第三争点に対する判断」欄の記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決七枚目表九行目の「印鑑登録証明書」の前に「昭和五九年一二月七日付」を加える。

二  同七枚目裏一一行目から同八枚目表一行目の「事務員ととして」を「事務員として」に改める。

三  八枚目裏六行目の「符号を合わせる」を「符合する」に改める。

四  同九枚目表七行目の「昭和五九年」の次に「一一月三〇日の社員総会においてこれを決議し、取締役である芳郎及び小池が同日付社員総会議事録に押印し、同年」を加える。

五  同九枚目裏七行目の次に、改行して次のとおり加える。

「右約定書(乙四号証)には、日吉産業の設立は丸吉組の運営を円滑にするためであり、日吉産業における問題の責任及び担保提供等を要請することはしない旨の丸吉組の芳郎に対する誓約が記載されている。」

六  同九行目から一〇行目の「不自然であるし」の次に「(担保提供や保証の要請があった時に名義だけの取締役であることを理由に容易にこれを断ることができ、それをもって足りる。)」を加える。

七  同一一枚目裏一行目の「甲一二」を「甲一〇」に改める。

八  同一二枚目裏一行目から同一三枚目表三行目末尾までを次のとおり改める。

「本件土地建物は、芳郎が先代山本松平から相続により所有権を取得したものであって、芳郎の主たる財産であり、これらを控訴人らに贈与することにより芳郎はほとんど無資力となったのであるから、これらの贈与が債権者を害する行為であることは明らかであり、かつ、芳郎は、主債務が五〇〇〇万円余りであることを知り、保証人として責任を追求されることをおそれて司法書士に相談し、その勧めに従い、本件土地建物につき、控訴人らに贈与する契約を締結し、妻である控訴人山本幸子については贈与を原因とし、共同相続人の関係にあったその余の控訴人らについては相続を原因として所有権移転登記などを経由しているのであるから、芳郎が債権者を害することを認識していたことも明らかである。

したがって、控訴人らに対する贈与はいずれも被控訴人に対する詐害行為になるというべきであり、贈与契約を取り消し、控訴人山本幸子に対し抹消登記手続を求め、その余の控訴人らに対し所有権移転登記手続を求める被控訴人の請求は理由がある。

ただし、被控訴人は、目録二の土地について、抹消に代わる移転登記を求めているが、これらの土地は農地であるところ、農地の贈与が詐害行為であるとして取り消された場合の所有権の復帰については農地法の規定による知事の許可は不要であり、したがって、右の場合に原状回復として右贈与につきされた所有権移転登記の抹消登記手続をするについても知事の許可書の提出は不要であって、右所有権移転登記の抹消登記に代えて贈与者である元の所有名義人に所有権移転登記手続をするについても同様と解される。本件においては、前記認定のとおり、芳郎から控訴人ら(山本幸子を除く。)に対する贈与につき、芳郎から右控訴人らに対する直接の所有権移転登記に代えて、芳郎の相続を原因とする山本松平からの所有権移転登記の錯誤による抹消登記と右控訴人らの相続を原因とする山本松平からの所有権移転登記がされているが、右贈与が詐害行為として取り消されたことにより、原状回復として右控訴人らに対する所有権移転登記の抹消登記と右錯誤による抹消登記の回復登記に代えて、元の所有名義人であった芳郎への所有権移転登記をするについても、前記の場合と同様、知事の許可書の提出は要しないものと解すべきである。」

九  同別紙物件目録一の(10)(同一六枚目表八行目)の「同所六六八〇番」を「同所六八八〇番」に改める。

第四結論

よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 越山安久 裁判官 大前和俊 武田正彦)

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